第23回京都賞記念講演会を聞いてきた。会場は連年のごとく、京都
宝ヶ池の国立京都国際会館である。京都賞の講演会はこれまでも何回
か聞きに行っており、昨年も参加している。今年も3名の方が京都賞を
受賞されている。主催は、財団法人 稲盛財団である。
今年は、先端技術部門で井口洋夫博士、基礎科学部門で金森博雄博士、
思想・芸術部門でピナ・バウシュ氏が受賞された。3者それぞれが1時
間弱の記念講演をするという構成であった。
まず井口博士から、
「私の化学研究の旅路 -人から学び、物に学ぶ-」
と題した講演があった。一高時代の話などから、「人から学ぶ」などの
点に対してのコメントがあり、その後、正倉院などに保存されている
着物の染料を化学的に分析すると、二重結合があり染料に適していた
ことがわかった、などという「物から学ぶ」などの点についてお話が
あった。井口博士は、黒鉛などの電気的性質などを計測して、有機分
子エレクトロニクスなどの分野を切り開いた研究者であり、ベンゼン環
や黒鉛についてのコメントがあり面白かった。
ベンゼン環の数が数個では、すす・黒鉛であり、数十個であると、
カーボンブラック、百個以上だとアセチレンブラック、百万個以上だと
黒鉛だそうだ。黒鉛はいわば鉛筆であり、徳川家康も使っていたそうで
久能山東照寺博物館に残っているそうだ。また、墨は、時間が経っても
酸化したら中に入らず気体となって飛んでいくそうだ。そこが特徴で
そのおかげで、墨で書かれたものは時間が経っても残っているとのこと
である。ある意味、「墨の表面は常に燃えている」と言えるようだ。
正倉院などに残っている書物がきれいに保存されていて驚いたが、墨の
話を聞いて納得してしまった。
次に、金森博士の話があった。金森博士は、リアルタイム地震学などを
提唱されている方で、地震などについての話が中心であった。
「波に魅せられて」
と題した講演であり、日本アルプスがどうやってできたのか、という
興味から、地震などで隆起すること、その地震が、波・波動方程式で
美しく表現できること、その中で研究を進めてきたことなどの経歴を
お話になった。さらに、地震予知についての話があり、身近な話題で
もあり、興味深かった。
地震は、断層すべりが複雑で、ずれ方が一様でなく、また、地震エネ
ルギーの放出に仕方も、多様であり、一気に放出する地震もあれば、
ゆっくりと時間をかけてエネルギーを放出する地震もある。後者で
あると、体には感じにくいものの地殻変動には大きく影響を及ぼす
ため、津波が起きやすい。明治時代の三陸地震や昨年のジャワ島の
地震などがこのたぐいだそうだ。さらに、小地震から大地震になる
かは、ドミノ式に地震が起きたりするか、にもよるそうで、地震予知
はなかなか難しいそうである。
一例を挙げると、交通事故を予測するのに、事故が起こりそうな
場所などの予測はできるものの、一台事故が起きたときに、玉突き
事故で大事故になるか、というのは、各ドライバーに依存していて
予測はしがたい。それと同じであり、地震においても、場所などの
予測はできるものの、どのくらいの大きさの地震になるか、などは
予測しがたいそうだ。
そこで、リアルタイム地震学などを提唱しており、地震が起きた
時点で、解析をし、地震が伝わる前に、必要な所に情報を送り、
対処するシステムを構築しているとのことである。日本においては、
新幹線警報システムなどが既に有効に活用されており、10月からは
気象庁緊急地震速報などがあり、とても進んでいるそうだ。防災に
役に立つ地震学の話であり、勉強にとてもなった。
最後に、バウシュ氏より
「私を突き動かすもの」
というお話があった。バウシュ氏は「人がどう動くか」ではなく
「何が人を動かすのか」について興味がある、とのことで、振付家
であるが、どういう哲学で振付家になったか、ということについて
お話ししてくださった。子どもの頃から「踊りたい」という思いが
強く、自分で振り付けをはじめ、「踊りたい」と「振付家」として
の矛盾、「振付家」としての道、その後、舞台に自然を持ち込むこ
とや質問を通じて稽古をすること、人の死や生についてのご経験の
話があった。先駆的な試みをしつつ、大変ながらも、いろんな体験
からたくさんのものを得、それらに対するお返し・贈り物としての
舞台、得られるものから突き動かされて、続けてきたことなどにつ
いてのお話であった。
全体としては、三者三様の興味深いお話を聴くことができたので
とても良かった。ただ、講演会の企画全部を考えると、受賞者の
方に単にお話をしていただくだけでなく、質疑応答やパネル
ディスカッションなどがあればよかったと感じている。また、
写真の解像度が低かったりした点が残念であった。もちろん、
ワークショップなどに参加すればよりインタラクティブなのである
が、記念講演自体ももっと面白いイベント構成にしたらよいのでは、
と感じた。もちろん、一般に無料で公開している点はとても感謝して
いる。また、良い話が聞けたのは良かったと思っている。